草津市協働のまちづくり条例(案)に関する考察(その5)

この連載では、現在パブリックコメント実施中の草津市協働のまちづくり条例(案)の論点を整理するために、マニフェストとの関連や全国的な施策や潮流、その社会背景などを調べています。

初回は、マニフェストに掲げられて策定された草津市自治体基本条例と関係が深いことを示し、2回目は本条例案に至るまでに実施されていた「草津市協働のまちづくり指針」の中で「新しい自治のしくみ」として位置づけられているまちづくり協議会について、草津市がどのように計画してきたのかを確認しました。

3回目は、その後の草津市協働のまちづくり行動計画や第5次草津市総合計画ならびに草津市行政システム改革との関係を見る中で、全国的な動きを振り返ることが必要ではないかと考え、前回の4回目では、まちづくり協議会が小学校区を単位としていることから、こうした学区単位のコミュニティ施策の出発点として位置づけられる「コミュニティ(近隣社会)に関する対策要綱(1971年)」まで遡ってみました。

そして、シリーズ5回目となる今回は、「コミュニティ-近隣社会-に関する対策要綱(1971年)」の基礎となっている国民生活審議会報告「コミュニティ-生活の場における人間性の回復」について話題提供したいと思います。

 

「コミュニティ」という言葉や概念は、この1969年の国民生活審議会報告によってクローズアップされるようになりました。

また、この報告で示された概念や基本的な考え方に基づいて、国や自治体で各種のコミュニティ政策が展開されていったことから日本におけるコミュニティ政策の原点と位置づけられています。

 

報告ではコミュニティを「生活の場において、市民としての自主性と責任を自覚した個人および家族を構成主体として、地域性と各種の共通目標を持った、開放的でしかも構成員相互の信頼感のある集団」と位置付けています。

詳しい内容を解説すると野暮ったくなるので省略します。

こちらに全文が掲載されていますので是非熟読してみてください。http://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/shiryou/syakaifukushi/32.pdf

 

ここでは、報告で特徴的なことをズバリ! 2点に絞ってみました。

まず1点目は、報告の副題で「生活の場における」とわざわざ強調している点です。報告は、純粋な意味でのコミュニティを表しているものでは無く、あくまでも国の施策としては小学校区を単位に限定して行うというイメージが表われています。

例えば、「序論-コミュニティ問題の提起-」において「行政圏域の拡大は同時に人間生活の地域的最小単位としてのコミュニティからの協力を一層強く必要とする」と市町村合併や広域化(更には行革推進も?)するなかで、生活に場におけるコミュニティの協力が必要であることを示し、「コミュニティの集団としての外延は明確に定めることが困難である。集団の機能に対応して、大きさの異なる組織が重層的に同時に存在し得るであろう。それは地域的一体性をもつものではあるが、地理的連続性を必ずしも伴わないものであろう。」と本来のコミュニティの姿を表してはいますが、これに続けて「しかしながらコミュニティを形成する根底は生活の場における地域住民の相互信頼である。」とし、生活の場としてのコミュニティを前提と位置付けています。

それは、前回取り上げた「コミュニティ-近隣社会-に関する対策要綱(1971年)」の名称にも、コミュニティの後にわざわざ「近隣社会」と付け加えていることからも明らかです。

コミュニティ=小学校区単位程度の近隣社会であるかのような理解が広まった背景には、国や行政の政策的意図があると考えて良いかもしれません。

 

次に2点目の特徴は、当時の公害問題に対する住民運動や社会運動を意識したと思われる点です。

「コミュニティが十全に機能するためには構成員が社会におけるルールを厳守することが要求される。権利の主張には責任が伴う行政サービスについての要求には負担が伴う構成員の自覚と責任において提出される要求は、それが如何なる方法で如何なる負担を伴って実現されるものであるかという点についての認識が明確でなければならず、一方的な権利主張に終始する態度であってはならないのである。(中略)住民の潜在的要求の多くは実現の方途もないままにあきらめられ不満のみが残存する。更に老人、青少年,児童等に関する様々の問題が地域の人々にとって何等の関心も共感も呼ばないものとして見過されてしまう。他方特定の利益誘導を目的とする地域集団が強烈な支持をうけて活発に活動することはあっても、それは構成員の義務と責任についての明確な認識に乏しい場合が多くいたずらに権利のみが主張される事態がしばしばみられるのである。(中略)かくしてコミュニティは古い要求自治的な意識を払拭し、正しい地域の自主的責任体制に基づく主張の場となり、今日われわれの日常生活のより所となって、現代文明社会における人間性回復のとりでとしての機能を確立しなければならないのである。」(序論)

「地域の人々の発意によって生活の場を改善向上しようとする要求が生まれ、それがコミュニティの場に提示されるとき、以下にみるような性格を備えたものになる必要があろう。第1にそれはすでにのべたようにコミュニティ構成員の民主的な話し合いによる実質的合意のあるものでなければならない。第2にそれは単に問題として提示されるに止まらず、進んで、どのような具体的方策によって解決されるべきかという基本的方向について建設的なコミュニティのアイデアが検討されるべきであろう。これによって必ずしも、最善の方策を発見し得ないとしても、問題の性質や内容が一層明らかになるであろう。問題によっては、専門的知識をもつコンサルタントの助言を要することもあると思われるので、そのような助言が容易に得られることも必要であろう。第3にそれはコミュニティ構成員の責任につながるものである。住民要求が何等かの婆でその成果を求めるものである以上、それは行政に対して一方的に発言するに止まるものではない。従ってコミュニティの各構成員は、問題について、まず個人およびコミュニティが何をなし得るか、行政のサービス水準において解決を期待される範囲はどこまでか、行政との間で責任や 負担の分担が必要になる場合の用意はあるか等についてコミュニティの側からの考え方を明らかにしておく必要があろう。」(第3章)

この文面を当時の社会状況から読み解くと、1967年に美濃部東京都政が誕生したことに象徴される革新自治体の動きや学生・住民運動などを排除する理論が見え隠れしています。

また、最近では定着している「協働」に相通じるところもありますが、行政の許容する範囲で、しかも各コミュニティで合意形成がなされ、個人やコミュニティが何をなし得るかを明らかにしなければ物申すなというのは、いかにも国や行政にとって都合の良いコミュニティが想定されているなぁ~と感じます。

そもそも、コミュニティというのは多様な価値観が共存する包容力あるものでなくてはならないのではないでしょうか。本来は自発的なコミュニティ形成について、社会目標としてのコミュニティという概念を打ち出して、その後政府がモデル地区などを設定して政策的に誘導してきた原点がここにあります。

 

ところで、コミュニティの原典とも言える著書『コミュニティ』(1917)の著者マッキーバーによると、「コミュニティとは、共同生活の相互行為を十分に保証するような共同関心が、その成員によって認められているところの社会的統一体である。ある領域がコミュニティの名に価するには、それより広い領域からそれが何程か区別されなければならず、共同生活はその領域の境界が何らかの意味をもつい くつかの独自の特徴をもっている。(中略) コミュニティは、社会生活の、つまり社会的存在の共同生活の焦点であるが、アソシエーションは、ある共同の関心 または諸関心の追及のために明確に設立された社会生活の組織体である。アソシエーションは部分的であり、コミュニティは統合的である。一つのアソシエーションの成員は、多くの他の違ったアソシエーションの成員になることが出来る。コミュニティ内には幾多のアソシエーションが存在し得るばかりでなく、敵対的なアソシエーションでさえ存在出来る。(中略)  しかし、コミュニティは どの最大のアソシエーションよりも広く自由なものである。それは、アソシエーションがそこから出現し、アソシエーションがそこに整序されるとしても、アソ シエーションでは完全に充足されないもっと重大な共同生活なのである。」(参考) http://kaikaku21.com/archive/zithikai.htm

 

「敵対的なアソシエーションでさえも存在できる」というコミュニティをイメージした時、小学校区を単位とした組織に限定するには無理があります。

コミュニティとは、多用なアソシエ―ジョンが泡立つように活動している共同生活の動的均衡状態を意味するものであり、様々な価値や目的を持ったアソシエーション活動によってはじめて高度な自治能力や主権者市民が涵養されるものではないでしょうか。また、コミュニティは行政主導で作られるものではなく、様々な自主的で多用な価値や目的を持った市民活動が共存・淘汰していく過程の中で自然に生まれてくるものです。

 

以上のことから、コミュニティと小学校区を単位としたまちづくり協議会との関係については、より多角的な分析が必要のようです。

次回は、自由民主党のマニフェスト「日本を、取り戻す。」に書かれているコミュニティ基本法について調べてみたいと思います。

 

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