協働のまちづくりに関する事例(3)

地域内分権の動きは、平成の大合併を契機として全国各地で盛んになりました。

合併によって自治体が大規模化・広域化していくことによって行政コストの軽減や多様なニーズに対応するための対応力の向上、課題解決のための施策の効率化、平準化などのメリットがあり、自治体としての受容力が向上する一方で、住民自治の観点からは市民と行政の距離感が遠くなることによる弊害が課題となります。

また、生活の身近な課題に対して、行政がすべて対応できる人的・財政的余裕が無い中で置き去りになってしまう危惧もあることから、合併による地域自治区の特例が設けられました。

更に、平成16年5月の地方自治法改正によって、以下のとおり地域自治区の設置が制度化されています。

 

地方自治法(抜粋)

(地域自治区の設置)

第二百二条の四  市町村は、市町村長の権限に属する事務を分掌させ、及び地域の住民の意見を反映させつつこれを処理させるため、条例で、その区域を分けて定める区域ごとに地域自治区を設けることができる。

2  地域自治区に事務所を置くものとし、事務所の位置、名称及び所管区域は、条例で定める。

3  地域自治区の事務所の長は、当該普通地方公共団体の長の補助機関である職員をもつて充てる。

4  第四条第二項の規定は第二項の地域自治区の事務所の位置及び所管区域について、第百七十五条第二項の規定は前項の事務所の長について準用する。

(地域協議会の設置及び構成員)

第二百二条の五  地域自治区に、地域協議会を置く。

2  地域協議会の構成員は、地域自治区の区域内に住所を有する者のうちから、市町村長が選任する。

3  市町村長は、前項の規定による地域協議会の構成員の選任に当たつては、地域協議会の構成員の構成が、地域自治区の区域内に住所を有する者の多様な意見が適切に反映されるものとなるよう配慮しなければならない。

4  地域協議会の構成員の任期は、四年以内において条例で定める期間とする。

5  第二百三条の二第一項の規定にかかわらず、地域協議会の構成員には報酬を支給しないこととすることができる。

(地域協議会の会長及び副会長)

第二百二条の六  地域協議会に、会長及び副会長を置く。

2  地域協議会の会長及び副会長の選任及び解任の方法は、条例で定める。

3  地域協議会の会長及び副会長の任期は、地域協議会の構成員の任期による。

4  地域協議会の会長は、地域協議会の事務を掌理し、地域協議会を代表する。

5  地域協議会の副会長は、地域協議会の会長に事故があるとき又は地域協議会の会長が欠けたときは、その職務を代理する。

(地域協議会の権限)

第二百二条の七  地域協議会は、次に掲げる事項のうち、市町村長その他の市町村の機関により諮問されたもの又は必要と認めるものについて、審議し、市町村長その他の市町村の機関に意見を述べることができる。

一  地域自治区の事務所が所掌する事務に関する事項

二  前号に掲げるもののほか、市町村が処理する地域自治区の区域に係る事務に関する事項

三  市町村の事務処理に当たつての地域自治区の区域内に住所を有する者との連携の強化に関する事項

2  市町村長は、条例で定める市町村の施策に関する重要事項であつて地域自治区の区域に係るものを決定し、又は変更しようとする場合においては、あらかじめ、地域協議会の意見を聴かなければならない。

3  市町村長その他の市町村の機関は、前二項の意見を勘案し、必要があると認めるときは、適切な措置を講じなければならない。

(地域協議会の組織及び運営)

第二百二条の八  この法律に定めるもののほか、地域協議会の構成員の定数その他の地域協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、条例で定める。

 

地方自治法で定める地域自治区を活用した事例として、長野県の飯田市、岐阜県の恵那市、愛知県の豊田市などがあります。

長野県の最南端に位置し、南北に天竜川が貫く人口 105,337人の飯田市は、地域自治区の導入と同時に地域の各種団体を統合再編することによって簡素で効率的なコミュニティ組織「まちづくり委員会」を創設し、各種の補助金や交付金を整理統合して住民が一体的かつ総合的にまちづくりに取り組むことができる仕組みの構築を図ってきました。

ところで飯田市は、以前から公民館運動が盛んな町として知られています。

「飯田市公民館は、『地域中心』『並立配置』『住民参画』『機関自立』の四つの運営原則に基づき、運営されています。中でも、『住民参画の原則』が、飯田市公民館の最大の特徴と言えます。地域住民から選出された『文化』『広報』『体育』などの専門委員が中心となって公民館事業を企画・運営し、その取組を同じく地域住民から選出され、教育委員会より任命される館長と,市役所職員である公民館主事が支える体制は、“公設民営”とも称されます。」(文化庁月報平成25年11月号)

公民館は地域住民の文化的な中心であるだけでなく、生活課題解決のための学習拠点であり、また日常的な住民の交流ネットワークの拠点でもあると位置づけ、市役所の職員は必ず公民館の主事を務めることになっています。もちろん閑職ではありません。

これによって、地域住民と行政との密接な関係や地域の課題や問題解決のための協働関係を築いてきたのです。

そして、こうした基盤があったからこそ、全国的に知られる「おひさまファンド」というエネルギーの地産地消の取組が行われたと言われています。

「おひさまファンド」は、おひさま進歩エネルギー株式会社(当初はNPOとして事業を開始)が実施している事業ですが、社長の原亮弘氏は長年に渡り公民館活動などの地域活動に関わってきた方です。

この事業は「飯田市の英断なしにはできなかった。」と言います。

何故かというと、この事業では公共施設の屋根に太陽光パネルを付けることで成り立つものですが、公共施設をいわば目的外に使用するとなると相互の信頼関係無くしてできません。

20年間に亘って行政財産を貸し続けるという契約があることで、その信頼性に基づいて市民からの意志あるファンド(お金)を集めることができると同時に、税金を使わずに太陽光発電の普及を行い、発電された自然エネルギーは主に飯田市の公共施設で活用することが可能になる訳です。

飯田市は2006年に議会主導で自治基本条例を制定されました。 飯田市自治基本条例では、地域自治の推進やしくみについて以下のとおり定めています。

飯田市の自治基本条例(抜粋)

第4章 地域自治

(市民組織の尊重)

第11条 市は、市民組織の自主性及び自立性を尊重し、市民組織が活動するために必要な支援を行います。

2 市民は、市民組織がまちづくり推進の主要な担い手であることを認識し、市民組織を尊重し、守り育てるものとします。

(地域自治の推進)

第12条 市は、地域の特性と自主性が生かされた、個性豊かで魅力ある地域のまちづくりを推進するため、自治の基本原則に基づき、分権によるまちづくりの仕組みを目指します。

(地域自治区)

第13条 市は、市民に身近な事務事業を市民の意見を反映させて処理するとともに、地域の自治を促進するため、法律に基づく地域自治区を設けます。

2 地域自治区に置かれる地域協議会は、地域の住民により構成され、地域の意見を調整し、協働によるまちづくりを推進します。

(まちづくりのための委員会等)

第14条 市は、市民組織が地域のまちづくりに取り組むため組織する委員会等の自主的及び自立的な運営を尊重します。

(自治活動組織)

第15条 市民は、地域社会の一員として、自治活動組織(地域市民により形成され、まちづくりに取り組む市民組織をいいます。)の役割について理解を深め、協力するとともに、自治活動組織への加入に努めます。

2 市民は、可能な範囲内で、自治活動組織の活動に参加し、地域社会において個性や意欲を発揮することができるものとします。

3 自治活動組織は、地域市民の加入や参加が促進されるために必要な環境づくりに努めます。

 

この自治基本条例に基づいて、旧町村単位の地区支所については地方自治法に基づく地域協議会を組み入れた自治振興センターとして、地区公民館ついては既存の住民団体を統合再編したまちづくり委員会の活動と連動したものとなっています。

具体的には、公民館には専門委員会制度というものがあり、文化・体育・広報などの取組がされていますが、平成19年度からはまちづくり委員会の委員としても位置づけられて実際生活に根ざした課題、地域課題等への組織横断的、積極的な取り組みがおこなわれています。

 「まちづくり委員会が飯田市の自治体内分権において大きな位置づけを与えられていることが分かるが、なぜこの委員会が設置されたのであろうか。その最大の理由は、既存の住民自治組織の縦割り関係がもたらす弊害を打破することにあった。そのなかでもとくに、行政との関係が強く、住民自治組織のなかでも影響力が大きい自治会と、全国的に見ても活発な活動を展開しつつ、行政と一定の距離関係を保ってきた公民館との間における齟齬があった。そこで、公民館が担ってきた住民の学習や活動の拠点としての性質が飯田市においても変化していくなかで、自治協議会連合会(自治会の連合組織のこと)が住民自治組織の整理統合の提案をおこない、それを契機としてまちづくり委員会への公民館の統合が実現したのであった。」(平成20 年度国土政策関係研究支援事業 最終報告書「持続可能な地域発展のための地域政策のあり方に関する実証研究」より)

第2次草津市行政システム改革推進計画(平成25年度~平成28年度)のアクション・プラン(市民自治の活性化)では、平成27年度からまちづくり協議会による市民センターの指定管理が示されています。

このプランとの関係からも飯田市のまちづくり委員会と公民館との関係については参考になるのではないかと思います。

ss

※ここで示されている既存組織の見直しについては、別の機会に事例紹介させていただく予定です。

 

次に、愛知県のほぼ中央に位置し「クルマのまち」として知られる豊田市は、平成17年10月に地方自治法に基づく地域自治区を設置しています。

地域自治区は、地域意見の集約と調整を主な役割とする審議機関としての地域会議と、その運営を支援する地域自治区事務所により構成され、「わくわく事業」と「地域予算提案事業」の2つの施策によって推進されています。

「わくわく事業」とは、地縁の組織や市民活動団体などの事業に対して地域会議ごとに年間500万円を交付する制度です。

この制度の特徴は、実質的には地域会議が公開審査を通じ、自己決定、自己責任の考えにより、補助対象事業や補助金額等を決定する点にあります。

基本的な審査基準は社会的公益性や地域での必要性、実現性、継続・発展性などとされていますが、その細は各地域会議において地域の実情を考慮した審査基準を作成し判断しているそうです。

わくわく事業パンフレット(PDF)

「地域予算提案事業」は、地域で共通認識された課題解決策を市の施策に的確に反映させ、効果的に地域課題を解消するための仕組みです。  例えば、豊南地区では犯罪発生件数が多いことから、「110番ブザー」の普及活動や自治区会館等での出張防犯講習会の開催、防犯多発地への看板設置、「防犯活動強化区域」を示す看板の各戸配布といった事業が提案され平成22年度から事業が実施されています。  その他の各地区の提案事業については、次のホームページで紹介されています。http://www.city.toyota.aichi.jp/division/ad00/ad20/1239241_15646.html   (つづく)

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