協働のまちづくりに関する事例(4)

分権型社会の推進において、「補完性原理」や「近接性原理」が基本的な考え方だと言われています。「補完性原理」とは、個人ができないことは家族、家族ができないことは地域コミュニティ、地域コミュニティができないことは自治体、自治体ができないことは国が担うという考え方で、自助・互助・共助・公助と表現されることもあります。「近接性原理」とは、住民生活においてはより身近なところで決定することがニーズや緊急性などを踏まえた適正な事業が行われるという考え方です。

協働のまちづくりは、分権改革によって基礎自治体への権限や財源の移譲が行われる一方で、人口減少と超高齢化社会の急速な進展の中で自治体と市民との関係を再編して、自助・互助・共助を基本として、より身近な所でセーフティネットを構築すると共に受益者としての市民から自治の担い手としての市民への意識・行動改革を問うものでもあるのではないかと思います。これをグローバリズムの進展の中でより小さな国を目指す新保守主義的政策や行財政改革による行政からの住民への負担の押しつけととらえるのか、1,000兆円を超える借金を抱える国の財政や地方自治体の財務状況、一方で2022年には団塊の世代が後期高齢者(75歳)となり現在の公的介護だけでは支えきれないという時期が目前に迫り、生活困窮者が増加すると共に住民ニーズが多様化・複雑化する中で地域をどのように支えていくのかという問題発想でコミットするのかによってとらえ方は大きく異なります。

しかし、二者択一的な発想やTV番組の水戸黄門のように悪代官が私利私欲で町民を虐げているのを見て印籠を翳して懲らしめるという勧善懲悪から解決策を見出すことは決してできません。現実と未来に責任ある主体として向き合おうとするならば、多元的な思考と行動、受益者市民ではなく主権者市民としての責任とポジティブな発想が必要なのではないでしょうか。

さて前置きはこの位にしておいて、これまで「協働のまちづくり条例(案)に関する考察」(全6回)や「協働のまちづくりに関する事例」(今回で4回目)を掲載してきましたが、事例については草津市の現状にそのままピッタリと当てはめることができるものを見つけ出すのは難しいように思います。

草津市は限界集落と言われるような過疎地域でもないし、市町村合併した訳でもなく、財政的には厳しい中でも安定した税収に恵まれ、大学のまちでもあり高齢化率も全国平均よりも比較的低く、京都・大阪のベッドタウンとして人口増加が続いています。

一方で、市内では一律ではない様々な課題を抱えています。

このことについて、草津市市民協働推進計画(H24.3)では「地域の課題解決や新しい価値の創造に向けて、行政だけでは解決できないこと、また市民だけでも解決できない問題が増大しています。 草津市においては、それらの問題が地域によって異なった様相を呈しています。例えば、近年建設された駅周辺をはじめとするマンションや住宅団地では、郊外から移り住むシニア世代や子育て世代の転入が多いものの町内会の加入率は低下し、保育園に入園できない待機児童の問題も顕在化しています。 一方、農村集落や昭和50年代に開発されたニュータウンでは、高齢化が進み、福祉や災害時の高齢者支援が目下の課題となっています。」と実情を示しています。

そこで、今回は協働のまちづくりを推進する手法やアプローチとその原動力に焦点を当てて紹介したいと思います。

 

前回取り上げた長野県の飯田市の場合は、地方議会がマニフェスト大賞の常連として活躍し、自治基本条例策定の中心的役割を担うと共に、公民館を軸に職員の育成も兼ねた行政と地域との協働によって、言わば「自治の涵養」を図ってきた事例です。

 

今回は、市長の存在によって協働のまちづくりが大きく動いていると思われる松坂市を取り上げます。

三重県松坂市は、松坂牛の産地として知られていますが、山中光茂市長は、2009年の初当選時には全国最年少の市長となり若手改革派として知られています。改革の取組を象徴するかのように、松坂市の玄関先やホームページに借金時計が設置され1時間あたり約202,286円の市債残高を減らしている様子を刻んでいます。

山中市長のポリシーは、「市民と一緒に考えて、市民のみなさんに責任と役割を担っていただく」ことだそうです。

松坂市では住民(まちづくり)協議会に対して地域のことは地域でやるのだから行政は推移を見守るだけという姿勢では無く、行政がまちづくりのモチベーションを高めるための工夫をして、そのシステムをつくることを基本的政策としています。住民協議会という枠組みだけを作って、そこにお金だけを投入し、後は地域で自主的に決めてください・・・というような「押しつけ型」や「自由放任型」ではなく、市長自らが2年間に亘って連日連夜スタッフと共に地域に入って地域住民が十分に納得した上でまちづくり協議会を作ったと言います。

「これはもう本当に大変だったのですが、2年間かけて地域に入り、議論をし尽しました。私だけではなくて、職員も担当部局の人数を倍に増やし、土日や夜も説明会を開いて住民の皆さんと徹底して話し合ったんです。「皆さんが地域のことを一番知っているのだから、皆さんで頑張れるところは頑張っていただきたい」と。そして半年ほどしたころに、「これからの時代はこうした仕組みが必要だ」と自治会連合会の賛同が得られ、最初にできたモデル地区でいろいろな案件が進んだことをきっかけに、他の地域の意識も少しずつ変わっていきました。」(人材マガジンvol.139

住民協議会の事業を支えるしくみとして特徴的なことは、行政だけでなく民間企業との連動も工夫されていることです。

例えば、「地域の元気応援事業」は地域の特性を生かした住民協議会活動を応援するコンペ型の事業ですが、その中の「地域づくりスポンサー賞」は、企業が地域社会の発展に寄与するためそれぞれの企業が指定するテーマごとに企業協賛金が加算されるというものです。

平成26年度は次のテーマで「地域づくりスポンサー賞」が提供されています。

「リサイクルや環境保全の推進」 協賛企業:マックスバリュ中部(株) 

「歴史文化の伝承」協賛企業:水谷養蜂園(株)

「地域資源を活用した住民参加のまちづくり」協賛企業:辻製油(株)

「安全安心のまちづくり」協賛企業:第三銀行(株)

「女性の参画と子育て」協賛企業:(株)アドウェル

 (松阪市HPより

 また、「市民活動サポート補助金」は、NPO等の市民活動団体を対象とした補助金制度ですが、住民協議会で多様な団体との連携を推進することを目的としている制度で「NPO等の市民活動団体がもつ特性を生かしつつ主体性を発揮して、住民協議会と連携したり住民協議会を支援するような企画」を対象としています。

更に、住民協議会を対象とした「広域連携部門」は、「複数の住民協議会が共同(枠組み)で取り組み、地域間の広域連携を推進するため、それぞれの住民協議会が協力して連携の輪を広げていただく部門」と位置づけられています。

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(図:松阪市住民協議会運営マニュアルより)

このような財政的支援だけでなく、地域担当職員の配置や地域応援隊の設置といった人的支援も充実しています。特に地域応援隊は、地元に住む市職員がボランティアで地域応援隊員として登録し、住民協議会をより身近でサポートするための制度で注目に値します。

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 (松阪市住民協議会運営マニュアルより)

これらのことを記した住民協議会運営マニュアルは83ページにも及ぶ充実した内容で、設立時のマニュアルも丁寧に作られています。

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更に、全国的にも珍しい制度として、ふるさと納税を地域協議会に対してできるようなしくみも取り入れられています。これは、総務省や国税庁との関係もあって一旦は市が受け取り、その後、分配委員会で当該地域に分配されているそうです。

 

その他、住民協議会等の活動に対して、市の公用車を無償で貸し出す制度もありますが、このことからも活動に対する細やかな配慮や合理性を感じとることができるのではないでしょうか。

 

(つづく)

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