昨日に引き続き、「自治体改革」(ぎょうせい発行)第5巻の4章~5章を紹介します。
第4章 自治体デモクラシーの発展
直接請求制度については、地方自治法で4つの制度が設けられています。
①条例の制定又は改廃の請求 ②事務監査請求 ③議会の解散請 ④議員及び長等の解職請求
この中で、①についてはあまりなじみがありませんが、もしかしてまちづくり基本条例などの制定を市民立法で行うこともできるでしょうか?
住民参加について、本書では住民投票や直接請求制度などの政治参加と、審議会やワークショップ・パブリックコメントなどの行政参加に区分されています。
住民参加制度については、議会機能の低下や既存の参加制度が形骸化している一方、NPOの台頭や地方分権の潮流のなかで、各自治体において様々な手法が積極的に取り入れられています。また、住民参加を制度的に確実なものとするために住民参加条例などの制定も盛んに行われるようになっています。(草津市も早く制定してほしい) 現状の課題として、個人を対象にしたものが多くNPOを含む団体を対象とした意見募集方法や参加形態にはあまり目が向けられていないことや、政策形成ではなく執行段階での参加が多いことがあげられています。また、新しいパブリックのありようやその担い手である市民参加のありようについて、従来の住民参加の枠を超えるシステムへの移行が必要であると問題提起されています。
さらに「コミュニティ施策の発展」について言及しています。
「コミュニティ」という言葉は、1969年の国民性格審議会調査研究部会の報告(「コミュニティ~生活の場における人間性の回復」)で「生活の場において、市民としての自主性と責任を自覚した個人及び家庭を構成主体として、地域性と各種の共通目標をもった、開放的でしかも構成員相互の信頼感ある集団を、われわれはコミュニティと呼ぶ。」と定義されました。
コミュニティの課題として、地縁型コミュニティの場合、本来は住民の自主的な組織であるにもかかわらず、歴史的には住民統制手段として使われてきた経緯があります。 例えば、江戸時代には五人組制度が実施され、幕府によって強制的に隣保組織が結成されました。 五人組制度では、 年貢を納めない者がでたり、土地を捨てて欠落をする者があると、組としての連帯責任が追及され、不納の年貢等は組が納めなければならなかったり、組内に犯罪者や隠れキリスタンがいることが分かれば密告しなければならず、それをしなかった場合は厳しく処罰されました。 現在の日本特有の連帯保証制度は、こうした流れを汲むものだと思われます。 また、町内会組織は、1940年代に大政翼賛会(近衛文麿を中心とする新体制運動推進のために創立された組織。総裁には総理大臣が当たり、道府県支部長は知事が兼任するなど官製的な色彩が濃く、翼賛選挙に活動したのをはじめ、産業報国会・大日本婦人会・隣組などを傘下に収めて国民生活のすべてにわたって統制した)によって戦争遂行の手段として利用された経緯もあります。 そうした中で、武蔵野市では1947年に町内会を廃止し、2002年にはコミュニティ条例を制定されました。
今後の方向性として、地縁型コミュニティとテーマ型コミュニティの両者の特質を兼ね備えた団体が地域の課題解決に向けた活動を行うことを提案されています。また、インターネットを使った電子型コミュニティの重要性がさらに増大していくだろうと述べられています。
情報公開制度については、地方分権改革が地域の自己決定=自治体の行政だけで決めるという意味ではなく、市民参加システムの充実が求められているとし、現在の情報公開制度に基づく情報開示は住民の請求を受けて行う「受け身」に止まらず、積極的に情報を提供していく必要があるとし論じています。 その先進事例として、福岡県春日市の基本条例が紹介されています。
▲春日市情報基本条例▲
同条例第5条には、次のとおり明記されています。
(情報提供) 第5条 市は、次に掲げる事項その他の説明責任を全うするために必要な事項について、前条の請求を待つことなく、広く積極的に保有情報の提供(公表を含む。以下「情報提供」という。)を行うものとする。 (1)市政運営の基本方針に関する事項 (2)基本的な行政計画に関する事項 (3)主要な事務事業に関する事項 (4)その他規則で定める事項 2 前項に規定する事項のうち、市民生活に対する影響が大きいと認められるものについ ては、規則で定めるところにより事前に計画案等を公表するものとする。 3 市は、情報提供を行うに当たっては、分かりやすく伝えるとともに、市民が情報を迅 速かつ容易に得られるよう配慮しなければならない。 4 情報提供の方法その他情報提供に関し必要な事項は、規則で定める。
このように、行政自らが積極的に情報発信していく際には、個人情報保護制度の整備も強く要請されると付記されています。
「NPOの発展」と題した節では、新たな公共の担い手としてのNPOへの期待が高まる一方、セクターとしてのNPOの可能性や役割について充分に認識されていないことが課題であると指摘されています。
第5章 自治体デモクラシーの将来展望
まず、次世代電子政府研究会の報告書で示されているITによるサイバー・デモクラシーについて解説がされています。
e-Japan 戦略によってもたらされる社会基盤の変革は、民間事業基盤の革新・強化、行政プロセスの効率化・透明化等にとどまるものではない。殊に、いわゆる電子政府との関わりから見たときには、市民が行政サービスの受け手という立場から、国、自治体等による公的プロセスへ積極的に参加する主体としての立場を獲得する契機を生みだしている。このような動きはe-democracy、サイバー民主主義あるいは電子民主主義といった言葉が表現しようとしているものである。
▲次世代電子政府研究会報告書(PDF)▲
次にインターネットによる情報提供が実行できている自治体として三鷹市と下関市、市民会議室の先進事例として藤沢市や大和市が 紹介されています。
また、サイバー・デモクラシーの中核となるメディアとして、ウェブログが紹介されています。たった一人のジャーナリズムであるブログが世の中を動かすこともありうるという力をどう活用していくのかが問われているのでしょう。
ITを通じて市民意識の確立を図り、市民社会型組織の中核としてNPOを強化するという意見に対して、次の2点について課題が述べられています。
1.今後、保守系NPOの台頭が予測されるが、市民社会内の分裂が広がるのではないか。
2.NPOの下請け化が進み、市民型組織とは呼べないものが多く出てくる。
またITが市民参加のツールとして活用が進み、民主主義を活性化させるとの期待がある一方で、ポピュリズムの蔓延が危惧されると指摘されています。第2節では、自治体基本条例制定運動について、その背景や本質について分析されています。
自治基本条例についは、ニセコ町が早い時期に制定しています。
▲自治基本条例(ニセコ町)▲
条例制定の背景には、量から質への転換や政府の劣化と市民が担う公共の台頭、地方分権改革と自己決定の動きがあると指摘しています。
(以下省略)
随分、長い文章になってしまいましたが、とにかく非常に密度の濃い内容です。 地方自治体の改革に興味のある方には、必読の書だと思います。