協働のまちづくりに関する事例(1)

【雲南市】小規模多機能自治の取組

出雲神話の一つ「ヤマタノオロチ伝説」をご存知でしょうか。

「ヤマタノオロチ伝説」は、氾濫を繰り返してきた斐伊川とその支流を「ヤマタノオロチ」に例え、その治水事業をオロチ退治と考える説や、須佐之男命(スサノオノミコト)がオロチ退治して剣を得ることなどから奥出雲地方のたたら製鉄集団と大和との抗争を意味した神話だとされる説などがあります。

島根県雲南市は、「ヤマタノオロチ伝説」の伝承地が多数存在している人口4万人程の山間地域です。

この雲南市に対し、平成17年度に「財政非常事態宣言」が発令されました。

また、財政難だけでなく高齢化率が30%を超える状況であることから、20年後の日本各地の状況を先行しているとも言われています。

「財政難や過疎化、超高齢化が進む地域だったら、さぞ疲弊化しているんだろうなぁ」と思われるかもしれません。

でも心配はご無用。……というよりも、この地域から住民主導によるまちづくりや活性化の糸口をつかもうと全国から注目が集まっているのです。

例えば、淡海ネットワークセンターが発行する「おうみネット」の第88号(2013.12.1発行)の特集記事で、次のように紹介されています。

「超高齢社会を地域で支え合うことのできる新たな地縁組織が住民主導で設立されています。滋賀県内の住民主導のまちづくりについては、自主・自立を期待する行政側と依存・支援を期待する地域住民の間に微妙な壁があり、そのことが地域単位のまちづくりの推進の壁になっているのではと感じていましたことから期待をもっての雲南市訪問です。」

雲南市は、「財政非常事態宣言」が出された7年後の平成24年度には「財政非常事態宣言」が解除されました。

その要因の一つに「地域自主組織」の推進があると言われています。

では、地域自主組織とはどういうものなのでしょうか?

また、従来の地縁組織とどのような違いがあるのでしょうか?

 

このことについて、雲南市が発行するパンフレットなどを読むと概ね次のような内容であることが示されています。

 集落の性質として、会合には主に世帯主が出席し「1戸1票制」になっており、男性の年配者による発想で物事を考えるようになっていることや、会合の内容を家族に伝えることが少なく女性や若者が考え、意見を言う機会がない。

 また、代表者は持ち回り(輪番制)となっていて、新しいことに積極的に取り組むことが難しいといった課題がある。

 こうした課題を克服するしくみとして、地域自主組織が設立されており、その特色については、

(1)「1戸1票制」を打破し、子どもや若者、女性など幅広い世代が関わる「1人1票制」を実現する。

(2)生活の維持、福祉、楽しみの実現、産業振興など、幅広い分野の活動を進める。

(3)課題ごとに部会を設けるなど、住民1人ひとりが「気軽に取り組める」、「楽しく取り組める」、「やる気を発揮できる」しくみをつくる。

 

 イベント型から問題解決型の事業を重視して、小規模多機能自治によって新しい公共を創出する組織。

 

地域自主組織の具体的な取組については、例えば鍋山地区の住民組織は水道の検針業務を行政から請け負っています。

この事業は、「まめなか君の水道検針」と呼ばれています。

方言で元気なことを「まめ」というそうですが、毎月「まめなかねぇ~」と声を掛けながら全世帯(430戸)の検針を行うことによって、地域の安心・安全を確保し高齢者の見守り活動を行いながら、水道局との契約によって事業収入を得ることができる一石二鳥の事業となっています。

 

また、「中野の里づくり委員会」ではJAの店舗が閉鎖し地区内で買い物ができなくなる危機に際し、住民たちが店舗を開設しました。

「笑んがわ市」と名付けられたこの事業は、野菜やみそなどを住民が持ち込んだり、憩のコーナーでは緑茶やコーヒーが100円で提供されており、住民の語らいの場にもなっています。

更に、2014年1月29日の読売新聞では、「吉田地区振興協議会」とJAや郵便局などとの間に高齢者の見守り協定がなされたと報じられています。

 高齢者見守り 4業者参加…雲南自治組織と協定

 雲南市の旧吉田村中心部の12自治会でつくる住民自治組織「吉田地区振興協議会」(錦織靖雄会長)が28日、日常業務で各家庭を訪問している地元郵便局、JAなど民間の4業者と「高齢者見守り協定」を結んだ。高齢化率40%で、独居、夫婦だけの世帯も多く、配達などの際に安否確認をし、緊急時には自治会、市の出先機関などに連絡する。

  地区人口(2013年3月末)1305人のうち65歳以上は528人で、全446世帯のうち3割は高齢者の独居か夫婦。現状に危機感を持った同協議会が、4業者に協定締結を打診していた。

  締結式は吉田町の吉田交流センターであり、吉田郵便局、JA雲南吉田支店、水道メーター検針業務を請け負う「株式会社吉田ふるさと村」、新聞販売「藤原商店」の各代表、錦織協議会長と協定書を交わした。

  錦織会長は「地域全体に網をかけるように、高齢者の生活を見守ることができる」と話し、さらに宅配便事業者などにも参加を呼びかけるという。

 

こうした住民主体の取組を行う上で、行政がこのことと向き合う姿勢が問われ、条件づくりや協働が求められます。雲南市には「雲南市まちづくり基本条例」(平成20年10月10日)でそのことがしっかりと位置付けられています。

基本条例の前文では、「まちづくりの原点は、主役である市民が、自らの責任により、主体的に関わることです。」と位置づけて、「市民は、まちづくりの主体であり、まちづくりに参加する権利を持ちます。」(第4条)と定め、また市民主体のまちづくりを進めていくため、第6条で「議会は、積極的な情報公開や、市民との対話に努め、開かれた議会運営を行わなければなりません。」「議員は、議会活動について、市民への説明責任を果たすとともに、公正かつ誠実に遂行し、市民の負託に応えなければなりません。」と議会の姿勢を問うています。更に、第7条では市長に対しては「政策形成、実施、評価及び見直しの過程において、市民意見の把握と反映を行うこと。」「市民に利用しやすい形で保有する情報の積極的な公開・提供を行うとともに、常に分かりやすい説明を行うこと。」とし、市職員に対しては「地域社会の一員であることを認識し、積極的にまちづくりの推進に努めなければなりません。」「職員は、公正、公平かつ誠実に職務を遂行するとともに、市民との協働や市民活動間の連携が図られるように努めなければなりません。」というように、徹底して市民主体まちづくりを進めるための基盤となる条件整備を図っています。

(つづく)

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