議会基本条例について(4)

議会の議決事項(その1)

 

平成26年5月7日から6月6日まで募集されていた草津市議会基本条例のパブリックコメントの結果が、8月28日付けでホームページに公表されました。

また、これに併せて「草津市議会基本条例(素案)の概要」および「草津市議会基本条例 逐条解説(素案)」が公開されました。

 

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条例案は9月議会で上程される予定で進められてきましたが、12月議会へ持ち越されます。
市議によると、その理由は第16条の議決事件(議会の議決事項)について疑義が生じたためだそうです。

 

議決事件に関して、現時点での条例案には次のとおり書かれています。

草津市議会基本条例 逐条解説(素案)

(議決事件)
第16条 議会は、法第96条2項の規定により次各号掲げる事件を議決するものとする。
(1) 草津市総合計画のうち、自治体基本条例(平成23年草津市条例第11号)第13条2項の基本構想
(2) 草津市総合計画のうち、自治体基本条例第13条2項(草津市総合計画のうち、自治体基本条例第13条2項の基本計画(方針および施策に関する部分に限る。)

2  議会は、前項に規定する議決事件の審議において、市長等とともに市民に対する責任を担いながら、計画的、かつ、市民の視点に立った透明性の高い市政運営となるよう議論に努めるものとする。

 

地方自治法では、議会の議決事項について次のとおり定められています。

地方自治法

第96条  普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
一  条例を設け又は改廃すること。
二  予算を定めること。
三  決算を認定すること。
四  法律又はこれに基づく政令に規定するものを除くほか、地方税の賦課徴収又は分担金、使用料、加入金若しくは手数料の徴収に関すること。
五  その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること。
六  条例で定める場合を除くほか、財産を交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けること。
七  不動産を信託すること。
八  前二号に定めるものを除くほか、その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分をすること。
九  負担付きの寄附又は贈与を受けること。
十  法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること。
十一  条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること。
十二  普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て、訴えの提起(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決(行政事件訴訟法第三条第二項 に規定する処分又は同条第三項 に規定する裁決をいう。以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において同じ。)に係る同法第十一条第一項 (同法第三十八条第一項 (同法第四十三条第二項 において準用する場合を含む。)又は同法第四十三条第一項 において準用する場合を含む。)の規定による普通地方公共団体を被告とする訴訟(以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において「普通地方公共団体を被告とする訴訟」という。)に係るものを除く。)、和解(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟に係るものを除く。)、あつせん、調停及び仲裁に関すること。
十三  法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること。
十四  普通地方公共団体の区域内の公共的団体等の活動の総合調整に関すること。
十五  その他法律又はこれに基づく政令(これらに基づく条例を含む。)により議会の権限に属する事項

2  前項に定めるものを除くほか、普通地方公共団体は、条例で普通地方公共団体に関する事件(法定受託事務に係るものにあつては、国の安全に関することその他の事由により議会の議決すべきものとすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く。)につき議会の議決すべきものを定めることができる。

 

今回公表された素案で、総合計画を議決事項とする根拠として示されているのは地方自治法第96条第2項です。

議会の議決事項に関して、全国の状況を知るには、総務省の「法第96条第2項の規定による議会の議決すべき事件に関する調」(地方自治月報 第56号)が参考になります。

 

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この調査によると、市町村で総合計画を議決事項としているのは北海道の稚内市・名寄市・栗山町、千葉県の成田市・御宿町、福井県勝山市、愛知県名古屋市などがあります。

 

そこで、名古屋市の事例について少し詳しく調べてみました。

名古屋市の「市会の議決すべき事件等に関する条例」では、次のとおり定められています。

 

名古屋市の「市会の議決すべき事件等に関する条例」(平成22年3月16日条例第1号)

(趣旨)
第1条 この条例は、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「自治法」という。)第96条第2項の規定に基づき、市会において議決すべき事件を定めるとともに、次条第1号に規定する基本構想及び総合計画の立案段階から市会が積極的な役割を果たすことにより、もって市民の視点に立った効果的な行政の推進に資することを目的とする。

(議決すべき事件)
第2条 自治法第96条第2項の規定に基づく市会において議決すべき事件は、次のとおりとする。
(1) 基本構想(本市における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための構想をいう。以下同じ。)及び総合計画(基本構想に基づき、長期的な展望に立った市政全般に係る政策及び施策の基本的な方向性を総合的かつ体系的に定める計画をいう。以下同じ。)の策定、変更(総合計画にあっては、軽微な変更を除く。以下同じ。)又は廃止
(2) 名古屋港管理組合設立に伴い、本市が愛知県及び名古屋港管理組合と締結する職員の身分、財産等に関する協定

(立案過程における報告)
第3条 市長は、基本構想又は総合計画の策定又は変更をしようとするときは、その立案過程において、基本構想又は総合計画の策定の目的又は変更の理由及びその案の概要を所管の常任委員会に報告しなければならない。

(実施状況の報告)
第4条 市長は、毎年度、総合計画に係る実施状況を取りまとめ、その概要を市会に報告しなければならない。

(市長への意見)
第5条 市会は、社会経済情勢の変化等の理由により、基本構想又は総合計画の変更又は廃止をする必要があると認めるときは、市長に対し、意見を述べることができる。

 

名古屋市では、議会が「基本構想及び総合計画の立案段階から積極的な役割を果たす」とし、総合計画も含めて「長期的な展望に立った市政全般に係る政策及び施策の基本的な方向性を総合的かつ体系的に定める計画」の策定や変更を議決事項とすると共に、その実施状況の報告を求め、変更や廃止の必要がある時には市長に意見を述べることができると定めています。

なお、基本構想については、平成23年5月に公布された「地方自治法の一部を改正する法律」において、基本構想策定義務の根拠規定であった地方自治法第2条第4項が削除されましたので、現在は法的な策定義務はありません。
しかし、草津市では「草津市自治体基本条例」において、「基本構想は、議会の議決を経て策定する。」と定められ、総合計画を基本構想と基本計画で構成されていることから、総合計画が市政運営の根幹をなすものと位置づけされています。

 

草津市自治体基本条例

第13条 市は、市政運営の最上位の計画として市民の参加を得て総合計画を策定し、総合的かつ計画的に市政を運営しなければならない。
2 総合計画は、目指すべき将来像を定めた長期の基本構想と、基本構想の実現のための中期の基本計画によって構成する。
3 基本構想は、議会の議決を経て策定する。
4 基本計画は、財政推計を踏まえ、事業によって構成される施策の体系をもつものとする。
5 市は、市長の任期ごとに基本計画を策定する。
6 市の政策は、緊急を要するもののほかは、総合計画によるものとする。
7 市長は、総合計画の進捗を管理し、その評価を公表するものとする。
8 市は、総合計画を見直すことができる。

 

また、逐条解説書では「現在、多くの首長がいわゆるマニフェスト(選挙公約)を掲げて当選することが通例になってきていることを踏まえ、本市においても、マニフェストを市の政策の中に盛り込み、その政策と総合計画との整合を図り、市は市長の任期に合わせて基本計画を策定することとしています。」とし、マニフェストとの関連性を強調しています。

 

さて、話は戻りますが、名古屋市は「河村たかしVS名古屋市議会」というような話題が報道されることも多く、基本計画を議決事項とする条例が議決された際には、市長は「議会の大暴力(暴挙)」「市会帝国条例だ!」と批判したそうです。

更に、この条例に基づいて行われた「名古屋市中期戦略ビジョン案」の議会での修正動議・議決について、地方自治法176条1項の「普通地方公共団体の議会の議決について異議があるときは、当該普通地方公共団体の長は、この法律に特別の定めがあるものを除くほか、その議決の日から十日以内に理由を示してこれを再議に付することができる。」を根拠として再議に付されましたが、修正することなく議決されたという経過があります。

次回は、これに関連した訴訟「名古屋市会議決取消請求事件」の判決(平成24年1月29日)の内容について検討してみたいと思います。

(つづく)

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